切った瞬間に生まれる “天然催涙ガス” の正体
ざっくり3行まとめ
- タマネギを切ると細胞が壊れ、アリイナーゼ酵素が働いて「プロパンチアール‐S‐オキシド」という揮発性ガスを生成。
- ガスが角膜に触れると 0.1 秒で 涙腺が刺激され、洗い流すための涙がドッと出る。
- 冷やす・水中で切る・レンジで 10 秒加熱などで酵素反応を鈍らせれば 涙は激減!
1. “催涙ガス” ができるまでを 30 秒で
用語 | はたらき |
---|---|
アリイナーゼ | 無臭アミノ酸「アリイン」を分解 |
LFS(Lachrymatory Factor Synthase) | 催涙成分への“瞬間変換”を司る酵素 |
プロパンチアール-S-オキシド | 目を刺激する揮発性ガス |
タマネギだけが持つ LFS 遺伝子 が「涙の元凶」。これがない系統(Sunion® など)はほぼ泣かない。
2. 目がしみるメカニズム
- ガスが角膜表面の水分に溶けて 軽い酸 に → “ツン” と刺激
- 刺激情報が 三叉神経 経由で脳幹へ
- 脳が「洗い流せ!」と命令 → 涙腺が通常の 5〜10 倍分泌
3. 涙を減らす3つのコツ
方法 | 原理 | 期待効果 |
---|---|---|
冷蔵庫で 2 h 冷やす | 酵素反応は温度低下で遅くなる (Q10 効果) | 涙量 約 −50 % |
流水下 / 水に沈めて切る | ガスが水に溶け空気中に拡散しにくい | 体感ほぼゼロ |
10 s 電子レンジ | LFS が熱変性して失活 | 甘みUP・涙ほぼゼロ |
4. “泣かないタマネギ” は存在する?
- 2015 年にニュージーランドで開発された Sunion® は
LFS 遺伝子発現を約 90 % ダウン → 切ってもほぼ無刺激。 - 2023 年から日本でも試験販売。価格は通常種の約 2 倍。
5. 切ったあと甘くなるワケ
切って数分たつと チオスルフィネート類 が
→ シクロアリイン に変わり、ほのかな甘味と旨味を生む。
涙は出るけど、炒め物がおいしくなるのはこの化学変化のおかげ!
参考リンク
- https://www.nature.com/articles/419685a
Imai, S. et al. “An onion enzyme that makes the eyes water.” Nature 419, 685 (2002) - https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jafc.7b00833
Yoshimoto, N. et al. “Chemical mechanisms of onion lachrymatory factor formation.” J. Agric. Food Chem. 65, 4382-4390 (2017) - https://www.mdpi.com/2304-8158/10/9/2128
Brunke, E.J. “Onion tear factor: chemistry and mitigation strategies.” Foods 10, 2128 (2021)
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